「君は海外のコンベンションを見たことがあるか?」
その一言が今も心に残っています。初めて理事長・田宮俊作と出会ったのは10数年前の事。
長く観光の仕事に携わり、コンベンションの名を背負った組織に在籍していながら、私は海外渡航経験もなく、従って、海外のコンベンションを見たことなどありませんでした。
わが社団の理事長である田宮俊作は、模型の神様と評され、日本を代表する模型メーカーの会長です。静岡の先駆けどころか日本でも数少ないビジネスモデルであった海外への販路開拓を、今を遡ること50有余年前から展開していました。ドイツ・ニュルンベルグで開催される世界最大の国際玩具見本市(トイフェア)です。当時は日本人に模型が作れるのかと揶揄され、「いつか見ていろ。」と。以来毎年出展し、今や見本市のメインブースに出展。【世界のタミヤ】と言われる地位を築いてきました。だからこそ、会長の言葉には重みがありました。
コンベンションとは何か? 地域と一体になる観光地域づくりとは? 半世紀に渡り、実際にその目で見、体感したからこその見識の深さから語られる言葉に時を忘れました。
4日間で8万人以上を集客する静岡でも最大級のイベント。静岡ホビーショーはすでに58回を数え、年々来場者が増え続けています。「この大きな集客イベントを地域の人がどうしてもっと生かさないのか?
人を集める事は僕がやるから、もっと地元が潤うように皆に利用してほしい。」この言葉を聞いて、かねてから温めてきた民間の観光振興組織(DMC)を作りたい。その理事長にぜひとも就任してほしいと思い、やっと了承いただくまでに3年余りかかりました。
21世紀のリーデング産業といわれる旅行・観光産業ですが、先進地欧米に比べ、法整備も仕組みも日本は、大きく遅れをとっています。2003年の観光立国宣言以来、日本国中が地方へどうぞと一斉に訪日外国人客をターゲットに、地域外交が動き出していました。しかしながら2019年、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、物の流れを止め、観光の最も重要な肝である人の出会い、家族でさえも遮断してしまうという誰も経験したことのない世界を作り出してしまいました。
経済復興のスタートとして、日本政府は観光に大きな予算を振り分けました。1964年、観光目的としての海外旅行が自由化されましたが、当時観光事業は日本の産業区分になかったことを思うと、やっと観光に光があたったと感慨深い思いがあります。
私は、観光はあらゆる産業を旅人(消費者)と結ぶ架け橋の役目であると思っています。
一見、観光と無縁と思える事柄も視点を変えると、観光という架け橋でしっかりと繋がります。各種の産業が直接繋がることにより、その産業への理解が深められ、興味を持っていただけることで他の産業にも波及し、地域の活性化に繋がるものと信じています。
観光産業の基幹は人です。どんなに素敵な景色も、素晴らしい素材も、人の力があってこそなのです。要するに、人の魅力に勝るものはありません。そして、人のつながりは一朝一夕にできるものではありません。
だからこそ、形だけの観光組織でなく、長い時間繋いでいける観光を通じての仲間の輪を作ることが重要なのです。「社団TIPS」は、静岡に住む人々が自分の住む場所を誇りに思い、楽しんで生活をしていける 地域が一丸となった観光地域づくりのお手伝いをしたいと願ってやみません。
(一社)TIPS 理事 佐野 恵子